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21世紀のサイノツノブログ

サイノツノによる提言

現政権の背景にあるもの 『日本会議の研究』(菅野完、扶桑社新書)

書評 現代社会論考

夏の参議院選挙が間近に迫っている。今日は、参議院選挙前に読んでおくべきおすすめの一冊を紹介したい。それが、『日本会議の研究 (扶桑社新書)』(菅野完・著)である。

安倍内閣の閣僚に日本会議の関係者が多い、という話は最近よく聞く。しかし、日本会議とは一体どんな組織なのかということはあまり知られてこなかった。本書は、数十年のスパンで、日本会議の歴史や方針、構成する人々を丹念に調査・取材して書かれている。詳しくはぜひ本書を読んでほしい。

本ブログでは、日本会議の概要と特徴をまとめて、その後にコアの団体及び、現政権との関わりについてまとめ、最後に感想を述べる。

 

日本会議は、「日本を守る会」と、「元号法制化国民会議」を前身とする「日本を守る国民会議」が統合して、1997年に結成されたそうだ。

方針は、皇室中心、改憲靖国参拝、愛国教育、自衛隊海外派遣。

日本会議を構成する団体は、宗教団体が多い。延暦寺もあれば、新宗教もあり、幅がある。また、霊友会霊友会から分派した佛所護念会教団が共存するという謎の事態が生じているそうだ。なぜ共存できるのかということは、後ほど。

 

日本会議の特徴は、効果的な運動手法、高度な事務処理能力、動員力である。

効果的な運動手法。

日本会議は、「日本会議地方議員連盟」という地方組織と、個別の事案ごとにつくられる別働団体(例えば「美しい日本の憲法をつくる国民の会」)の地方組織を持っている。彼らの活動方法は、地方議会に請願・陳情を行い、署名を集め、法制化を求める議決を求め(例えば「憲法改正の早期実現を求める地方議会決議」は、25の都道府県議会と36の市町村議会で議決された)、大規模な集会を開催し、国に圧力をかけるという手法である。実際にこのような方法で、歴史教科書採択問題や男女共同参画バッシングは成功してきたという。請願や署名活動の担い手は、宗教団体の運動員であるという。

 

高度な事務処理能力。

著者は事務局が質・量ともに高度な事務処理能力を持っているとみている。活動が大規模であることは前述した。著者が地方議員に取材したところ、請願をこれだけ行う保守系団体は他にない、ということだったそうだ。また、選挙のたびにアンケートが届くとのことだった。

 

動員力およびマネジメント能力。

著者は、日本会議の「改憲一万人大会」に参加したそうだ。そこで著者が見たのは、45分で70台のバスをさばく誘導員(ガードマンなどではなく、日本会議の関係者)の姿だった。また、整理券ごとに事前に入場ゲートを分けられていたという。著者は、団体ごとの動員数が把握しやすく、欠席率もわかりやすい、洗練された手法だとみている。

利害の異なる団体をまとめ、実際に一万人動員を達成することは、事務方のマネジメントが優れているということである、と著者はみている。そして、政治家はそれが何よりも魅力だと感じているのではないかと。ある団体は、3000人の動員だったそうだ。

多様な団体をまとめあげるのは、「君が代」、左翼への揶揄だと、大会で感じたそうである。つまり、「なんとなく保守っぽい」装置であるという。

 

以上が日本会議の特徴である。日本会議の事務方が非常に活躍していることがよくわかる。

それでは、日本会議の事務方は誰なのか。実際に運動を推進しているのは「日本青年協議会」であることがインタビューや取材から確認されている。

1970年に結成された日本青年協議会とは、「全国学生自治連絡協議会」のOB組織である「全国学生自治連絡協議会」は、「長崎大学学生協議会」+民族派の学生が結集してつくられた。「長崎大学学生協議会」は、長崎大学正常化に成功した、生長の家の学生信徒グループがつくったものだ。すべては生長の家学生運動から始まっている。長崎大学学生協議会の議長であった椛島有三氏は、現在、日本青年協議会の議長、日本会議の事務総長であるそうだ。

椛島氏と日本青年協議会は、1974年に「日本を守る会」のメンバーで生長の家の信徒でもあった村上正邦氏に誘われて、日本を守る会の事務局に入った。この頃、日本を守る会元号法制化運動に取り組んでおり、椛島氏は現在の日本会議の戦略そのものともいえる運動方法をアドバイスしたという。それによって、運動開始から2年で立法に成功した。このことは、保守陣営にとって衝撃だったらしい。

 

著者は、日本会議を支えるのは、椛島氏をはじめとする「生長の家学生運動ネットワーク」(現在の生長の家は、左傾化し、1983年に政治脱退宣言をしているので日本会議とは関係がないそうである)だとみている。

ここで「生長の家」について触れておこう。

谷口雅春を教祖とする「生長の家」。その教義はウルトラナショナリズム。『日本の10大新宗教 (幻冬舎新書)』によれば、1940年、谷口は「すべて宗教は、天皇より発するなり。」と、天皇信仰を打ち出した。ゆえに、戦後に公職追放を受けた。それが解けた後、「明治憲法復活」「占領体制打破」(前掲書によれば、「紀元節復活」「日の丸擁護」「優生保護法改正」も)をかかげ、積極的に社会運動に乗り出したそうだ。その流れに連なるのが椛島たちの学生運動である。

左傾化の路線変更に異を唱える人々が、こうした運動を受け継いでいると著者は見る。

生長の家本流運動「谷口雅春先生を学ぶ会」なる会が存在するのだが、その機関誌の編集長である中島省治氏が先の「改憲一万人大会」に参加していたという。

安倍首相のブレーンである伊藤哲夫氏もかつて生長の家に幹部として所属していたそうだが、1984年(生長の家政治脱退の翌年)に「日本政策研究センター」を設立する。2007年に生長の家が出していた書籍を自身の名で再出版するなど、生長の家本流派とみられている。

日本政策研究センター改憲について、緊急事態条項、家族保護条項、自衛隊国軍化という順序をつけているが、これは安倍首相が言っていることと一致するし、日本会議の「改憲一万人大会」でも同様のことが述べられたという。

官房長官が名前を出した集団的自衛権を合憲とする憲法学者3人のうちの一人、百地章氏。彼は、学生時代「全国学生文化会議」(生長の家学生信徒、民族派学生を母体)の結成大会で実行委員長を務めた。現在は、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の幹事長、「『二十一世紀の日本と憲法有識者懇談会」事務局長である。どちらも日本会議の組織だ。「谷口雅春先生を学ぶ」創刊号の編集人でもあるそうだ。

 

著者の丹念な調査によって、数々の「右傾化」現象も、生長の家原理主義運動が根底にあることが浮かび上がる。塚本幼稚園も、在特会などの「行動する保守」も、チャンネル桜(初回は安倍首相と伊藤氏の対談)も、彼らが守り育てた側面があるそうだ。

 

著者は、彼らが長きにわたって活動を続けられてきた「淵源」とはなにか、と思索する。谷口雅春は1985年に亡くなっているので、きっとカリスマ的人物がいるはずだ、と考える。そこで著者は安東巖氏の存在に行きつく。

彼は、椛島氏より前に学生協議会会長を務めており、長崎大学正常化を主導した人物だ。主要人物の中では珍しく戦前生まれでもある。彼は、高校生のころから7年間闘病していたが、聖典「生命の実相」を読み、谷口の教えを悟り、生長の家の地方講師に指導を受けた結果病気が治ったのだそうだ。その後、高校に復学し長崎大学へ進学。著者が思うに、彼のカリスマ性を担保しているのは、この信仰体験が谷口から語られたという事実だという。また、安東氏の不思議な力についても言及している。ある証言者は「この人の言うことが幸せにつながる、お国のためにつながる」と思ったそうだ。彼と話した後、車いすのおばあさんが立ったという証言もある。

彼は表舞台に立つことなく、裏で指揮しているという証言も紹介されている。平成になる頃までは、椛島氏、伊藤氏、百地氏らは、安東氏の家でミーティングをしていたという。彼の指示をそれぞれの持ち場に戻って伝えるのだと言う。もっとも、安東氏に関してはオープンな資料が少なかったそうなので、推測の部分はあると思うが。

 

本書を読んで思ったこと。

まず、見えない存在を可視化した著者の仕事に敬意を表したい。極右的な動きの担い手が誰なのか把握できていなかったのだが、本書によって輪郭がつかめてきたように思う。わからないこと、見えないことは、それだけで恐ろしく、不気味に感じてしまうものだから、その意味で本当に意義のある著作だと感じる。

また、もし彼らが本当に生長の家原理主義をもとに活動しているならば、堂々と明かすべきであると思う。創価学会公明党の支持母体であることはよく知られるところであるのだし、日本会議に加盟している団体もその宗教を明かしている。私は彼らの思想には同意できないが、信教の自由は保障されているのだから、堂々と活動してほしい。

それから、最近の普通に見れば反動的な動きは、宗教活動の一種なのだと理解した。だからこそ、安倍首相やその閣僚たちは傍若無人なふるまいをしても平気なのだ。なぜなら、彼らが気にしているのは国民ではなく、日本会議(と、その後ろのもろもろの団体)であるのだから。しかし、政治は特定の人の宗教的願望を結実させるための道具ではない。自己実現の道具ではない。個人の嗜好で動かすものではない。国民のために政治はある。国民全員のことを考えて、国民のために行動するのが本来の政治家のはずである。政治家はどこにいるのか。とはいえ、国民にも責任があろう。今のような状況は国民が政治に無関心であったことが生み出したのではないか。政治家は自身の政治生命のためにも、票が欲しいのだ。無関心な国民は、誰に投票するかわかったものではないから、政治家は必然的に確実な組織票に頼る。

つまり、筆者の言うように、『日本社会が寄ってたかってさんざんバカにし、嘲笑し、足蹴にしてきた、デモ・陳情・署名・抗議活動・勉強会といった「民主的な市民活動」をやり続けてきたのは、極めて非民主的な思想を持つ人々だったのだ。』ということである。

でも、参院選はこれからである。投票は18歳以上ならば誰でもできる。

 

(追記)本書の刊行を受けて、日本会議関係者のコメントが以下に掲載されていた。

話題書『日本会議の研究』に関係者激怒「トンデモ本ですよ」│NEWSポストセブン

 

日本会議の研究 (扶桑社新書)

日本会議の研究 (扶桑社新書)

 

このブログにはまとめきれなかったが、本書を読めば、靖国神社参拝になぜこだわるのか、離婚期間は違憲判決なのになぜ別姓は合憲判決なのか、安倍政権がなぜ閣議決定憲法を骨抜きにできたかということや、各団体の詳しい方針、他の関係者についてが分かるはずだ。A4ノート7冊と12箱分の資料に裏付けられた力作。

 

日本の10大新宗教 (幻冬舎新書)

日本の10大新宗教 (幻冬舎新書)

 

 生長の家についての記述は18ページほどしかないが、成り立ちと教義の要点はわかると思う。