21世紀のサイノツノブログ

サイノツノによる提言

恋愛とは何か 『白い薔薇の淵まで』(集英社文庫)

今日は、中山可穂著『白い薔薇の淵まで』という小説を紹介したい。本作品は、第14回山本周五郎賞を受賞している。

 

私は毎日2~3冊ほど本を読む。情報収集を目的として読書をするので、「読書を目的とする読書」はあまりしない。ゆえに、小説はほぼ読まない(かつては太宰治を黙々と読み、村上春樹を次々に読破していた時代があった。「読書を目的とする読書」オンリーの時期があったわけだ。小説を読まなくなった今も、小説が嫌いなわけではなく、ゴールが変わったゆえに読まないだけである)。

そんな私だが、機会があって『白い薔薇の淵まで』を読み、完全にノックアウトされてしまった。入り込みすぎて一気に読み終えてしまった。その興奮が醒めやらぬうちに、ペン(キーボード)をとった次第である。

 

それでは、あらすじと感想・考察をお伝えしていこうと思う。

 

まず、あらすじ。

登場人物は、かけだしの女流小説家「塁」と流通会社の広告部分で働くOL「クーチ」。

塁はとても激しい性格で、わがまま、甘えん坊、あまりお金はないけれどセンスがいい。複雑な家庭で育ち、家族とは絶縁状態。

クーチは、マメでしっかり者、面倒見が良い。お金には余裕があるようだ。愛情のある家庭で育った。

二人は、雨の降る深夜、六本木の書店で出会う。クーチが塁のデビュー作を手にとっているのを見て、塁が声をかけた。二人は自然に求め合い、恋人になる。塁もクーチもお互いに夢中。半同棲状態になるが、離れてはくっつき離れてはくっつきを何回か繰り返すが、クーチの父が癌になったのをきっかけに、二人は別れてしまう。クーチは、父が死ぬ前に安心させたいという思いから、学生時代から付き合いのある男性と結婚する。だけども、クーチは塁のことが忘れられなくて・・・。偶然本屋で再会するが、もう一度ちゃんと塁に会いたいと思うクーチ。結局クーチは塁に会いに行くのだが、その時に、塁はクーチの夫の教え子に刺されてしまう。塁は入院するが、入院先の病院で求め合ってしまう二人。ところが、年末にクーチが実家に帰っている間に、塁は姿を消してしまう。東南アジアのチャイナタウンから届く塁のポストカードたち。クーチは塁を探しにジャカルタへ向かうのだが・・・。

 

私の説明ではこれが精一杯である。小説は「文体による芸術作品」なので、これ以上説明すると輝きが失われてしまう。興味のある方は、ぜひ、実際にお読みいただければと思う。

 

次に、感想・考察。

恋愛とは何か、ということがよくわかる小説だった。

二人は女性同士であるのだが、二人は「女性を」愛する者だとは自覚していないのである。ただただ「相手を」好きなだけなのである。性別という上っ面の皮は関係なく、皮をはぎとった所にある相手の魂が好きなのである。社会的に見ればたまたま女性同士なだけ、なのである。性別というのは皮の名前に過ぎないのである。

皮を剥ぎ取った魂が惹かれ合う、それが恋愛というものなのだ。

 

しかし、多くの人の恋愛は皮だけ見て相手の魂を見ていないように思う。いわば「皮恋愛」である。男と女の恋愛という社会的には「ふつう」とされている恋愛にも、「皮恋愛」は隠れている。

たとえば、社長になった途端にモテるという現象はまさにそれだ。「社長」という皮によって来る「女(男)」。「女(男)」という皮によっていく「社長」。でも、皮が好きなだけだから、皮がはがれた途端にいなくなる(ホリエモンはそれを体験しているようだ)。婚活サイトの条件「○○大卒」「年収○○万」「身長○○㎝」とかも皮だ。皮と結婚するわけじゃないのに、婚活商売企業はわざわざ皮を重要視させたがる(それに乗ってはいけない)。

皮とはつまり、社会が勝手につけた名前である。「女(男)」も「社長」も、社会が名づけている点では同じである。名づけないと不便な場合があるから、名付けているだけなのだ。

 

多くの人は、この小説をレズビアン小説と呼ぶかもしれない。もちろん、「女性同士の恋愛」に対する厳しい社会状況ゆえの困難も二人にふりかかった。実際、クーチはそれを気にして塁と別れてしまった場面がある(愛する者同士が快適に生きられるような社会状況、法律を作っていく必要がある)。

でも、本作を「レズビアン小説」と呼んだ時、それは本作品の本質を表現できていないように思うのだ。なぜなら、二人はただお互いがお互いを愛しただけで、「女性だから」という条件はそこになかったからだ。クーチは塁そのものを愛し、塁はクーチそのものを愛したからだ。

だから私は、本作品を「皮を剥いだところで惹かれあった二人の恋愛小説」と紹介したい。

 

白い薔薇の淵まで (集英社文庫)

白い薔薇の淵まで (集英社文庫)

 
白い薔薇の淵まで (集英社文庫)

白い薔薇の淵まで (集英社文庫)