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21世紀のサイノツノブログ

サイノツノによる提言

本当の敵を思い出せ 『ハンガーゲーム』『ハンガーゲーム2』

私はジェニファー・ローレンスが好きだ。彼女は、2013年にアカデミー賞主演女優賞を獲得した女優である。

世界にひとつのプレイブック』を観て以来、すっかりファンになった私は、最近彼女の出演作品ばかりを選んで次々に観ていた。

演技はもちろん上手だけれど、何よりも不思議なオーラに魅了される。また、演技の外の彼女も好きだ。ハリウッドにおける男女の賃金格差について語った(Jennifer Lawrence: "Why Do I Make Less Than My Male Co‑Stars?")社会的意義ははかりしれない。

そんな魅力的な彼女が出演する作品の中で、特に印象に残った作品がある。それが『ハンガーゲーム』である。

 

今回は『ハンガーゲーム』の魅力を紹介したい。

ただし、本作品は全4作あるのだが、私は1(『ハンガーゲーム』)と2(『ハンガーゲーム2』)のみしか観ておらず、原作も読んでいないのであしからず。

 

まず、映画の内容を簡単に。

舞台はパネムという名の仮想国家(どうやらアメリカ崩壊後にできた国家のようである)。国民は反乱を経て、貴族と平民に分かれている。貴族は首都に住んで特権的な生活を楽しむ一方、平民は首都周辺で漁業、林業、炭鉱業などに従事していた。その国では、毎年「ハンガーゲーム」と呼ばれる殺し合いのゲームが開催されていた。目的は、反乱を起こした罰を与え続けるため。ゲームの参加者は、それぞれの地域(12地区ある)から12~18歳の男女が1名ずつ抽選で選ばれる。

ジェニファーの役は、妹の身代わりとなって志願した、狩猟が得意な少女・カットニスだ。彼女が主役である。

 

魅力その1。独特な世界観。

貴族の服装はパリコレみたいに奇抜できらびやか。政府の軍隊はSFみたいな白いボディースーツ。「近未来的な」ビル。超高速鉄道が国中をかけめぐる。

ハンガーゲーム自体もおもしろい。オリンピックの開会セレモニーのような「開会パレード」があり、出場者によるトークショーがあり、一大ショーイベントなのである。

また、ハンガーゲーム出場者を支える体制も興味深い。専属のスタイリスト、以前のハンガーゲームの勝者であるメンターが用意されている。人気が出ればスポンサーがついて、ゲーム中に差し入れを受け取ることもできる。

スポーツの国際大会とアメリカン・ショーがあわさった感じなのだ。

いろいろな要素が組み合わさって、どこにもない不思議な世界が立ちあらわれている。

 

魅力その2。主役二人の役割分担が新鮮。

狩猟が得意で意志は強いが苦悩もあるカットニスと、少し気弱であきらめたところのあるパン屋の息子ピータという組み合わせ。

瀕死のピータを救うために危険地帯に飛び出すカットニス。言いすぎてしまったカットニスをいさめるピータ。

上記のように書くと「一般的なヒーローものと男女が入れ替わっただけではないか」と誤解してしまいそうだが、実はちょっと違う。ただ男女の役割が入れ替わったわけではないのが、本作のおもしろいところなのだ。

既存のヒーローとヒロインの関係は、戦う人と待つ人、あるいはリーダーと補佐という関係だった。でも、カットニスとピータはそれらとは違って、お互いがお互いを思いやる関係であり、共に戦うパートナーなのである。たとえば、2のゲーム前に2人ともメンターにもう一方を守ることを依頼している。

蛇足だが、この関係性ができたのはカットニスが妹をとても大事に思っていたり、人殺しに対して違和感を持ち続ける人間味ある人物であることであることも関係しているように思う。一般的なヒーローは「大義のために」という論理が先行して、人間の大事な情動を置き去りにしがちであるように見受けられる。大事な情動を置き去りにすれば、最初はヒーローでも、ヒトラーとかスターリンのような論理先行人命軽視になる恐れがあるわけだ。独裁者はサイコパス、みたいに言われることも多いが、あながち間違いではなさそう。

 

魅力その3。現代の世界への皮肉。

(1)凱旋パーティーでの一コマ。

食べ物をすすめられて「お腹がいっぱい」と断るピータ。すすめた貴族は「全部味わうために吐き薬を飲んだらいい」と言う。「故郷では飢えているのに・・・」とやりきれない気持ちになるピータ。

これは、現実の世界も同じ状況であろう。先進国では期限が切れた食物は廃棄される。肥満が社会問題になっていたりもする。一方途上国では、骨が見えるほど痩せた子供たちがいる。挙句の果てに、餓死する。

 

(2)「本当の敵を思い出せ」。

カットニス(とピータ)は結局ゲームに勝つのだが(勝つところまでが1で描かれる)、勝者になるための手段が反政府的だったとして、大統領・スノーに目をつけられてしまう。その一方で、国民はカットニスを反政府のシンボルとして捉え、反乱がおこり始める。しかしその芽は政府軍によってつみとられていくのであった。カットニスはその状況に心を痛める。そんな中カットニスは、歴代のハンガーゲーム勝者のみが参加する記念大会へ出場することになってしまう。

その2回目のハンガーゲーム前に、メンターがカットニスに言ったセリフが「闘技場に出たら、本当の敵を思い出せ」である。

メンターは、勝者たちはお互いに面識があるゆえに、新参者のカットニスたちは彼らと協力することが必要と考えていた。しかし、カットニスに全然協力する気がないことを見抜いていたメンター。それでも、彼女が各地で人びとが処刑されたり罰せられたりすることに理不尽さを感じていたこと、一度ハンガーゲームに勝ったにもかかわらず再びゲームを強いられて怒っていることをメンターは知っていた。

だから彼は、上記のセリフでもって彼女を諭し、励ましたのであった。ゲームにおける「敵」ではなく、ハンガーゲームを主催する大統領・スノーこそが敵であることを忘れるな、ということである。

 

このセリフは現実世界の私たちにも有効だ。

私たちは争いが起こった時に、争いを起こして得をしている人たちを見ないで目の前につくりだされた「敵」を見てしまう。

たとえば、イラク戦争時のアメリカもそうであった。イラクをテロリスト国家である、と煽る。国民は怒り、戦争を支持し、熱狂する。その裏で軍事関係の企業はがっぽり儲ける。この場合の本当の敵はメディアであり、軍事関係の企業であり、それらと癒着した国家であるわけだ。

 

(3)「ショー」をみせて国民を政治から引き離す。

ハンガーゲームは、それ自体がショーであることは前述した。

また、カットニスとピータは最初のハンガーゲームに勝つために「偽装恋人」を演じたのだが、ゲーム終了後も演じるように大統領から命ぜられている。恋愛であることを国民に信じさせることで反乱を防止する狙いがあってのことだ。

大統領は、国民をハンガーゲームというショーに熱狂させて政府への不満を忘れさせ、カットニスとピータの恋人ごっこを永続的に見せることによって国民の不満をガス抜きしているのだ。

 

こういった発想から生まれた政策は私たちの世界にもある。3S政策がその代表だ。念のため3S政策について簡単に説明しておくと、Sport、Sex、Screenを用いて国民の関心を政治に向けさせないように骨抜きにする政策である。

あるいは、最近で言えば、清原和博氏が逮捕されたニュースがセンセーショナルに報じられている裏でTPP署名式が行われたこともそうだ。清原氏逮捕は、まさしく国民の目をそらせるための「ショー」だと言える。

 

話がだいぶ拡大してしまったが、『ハンガーゲーム』はアクションファンタジー映画としても楽しめるうえに、政治的なメッセージも読み取ることができる間口の広い映画である(私はちょっと政治的に読みすぎかもしれないけれど)。

 

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1はハンガーゲーム自体がメイン。代表が選ばれる時までの恐怖のドキドキ、ゲームでのハラハラ。2に比べると純粋にアクションファンタジーという感じ。

 

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 2はハンガーゲーム後の凱旋ツアーと2度目のハンガーゲーム、そして革命への序章。

シリアスな内容なのだけれど、ピータお手製のクッキーが登場したり、ジェニファーの変顔がでてきたりちょっと笑ってしまう場面も。