21世紀のサイノツノブログ

サイノツノによる提言

ハロウィンの次は 『サンタクロースの大旅行』(岩波新書)

ハロウィンが終わった。

ハロウィンの経済効果はいまやクリスマス以上のものになっていると聞く。10年前くらいからは想像もつかない盛況ぶりである。

しかし、クリスマスは依然として楽しみなものである。

幼い頃、アドベントカレンダーをめくっては、クリスマスの来る日を心待ちにしていた。そして、サンタクロース。サンタクロースという存在は今でも子供心をくすぐる。

ということで、今回はそんなサンタクロースにまつわる本を読んだので紹介することにする。

 

本書の内容を一言でいえば、POPなタイトルではあるが、れっきとした「サンタにまつわるフォークロア」である。

 

聖ニコラウスがサンタのおおもとの起源であるというのは、よく知られている。しかし、聖ニコラウスは今でいうトルコあたりの人間である。私たちが思い描く「赤い服を着て白いひげをたくわえ、トナカイを連れているプレゼントをくれる優しいおじいさん(白人)」とはどうも結びつかない。

どのように上記のような「サンタクロース」ができあがってきたのか。結論から言うと、身もふたもない言い方をすれば、「聖ニコラウス」と「土着信仰」と「アメリカと資本主義」が合わさってできたものである。

 

一つ一つ説明してみよう。

まず聖ニコラウス。

彼は、子供の守護聖人である。樽につめられ子供を救い出したという話が伝わっているためである(ちなみに、乙女と船乗りの守護聖人でもある。

 

次に、土着信仰。

クリスマスとして知られるイエスの誕生日は、ニカイア公会議で12月25日と定められた。実は、この日はキリスト教以前の宗教であるミトラ教冬至祭の日であるという。ミトラ教は、太陽を信仰している。その太陽は冬至の日にむかってエネルギーを落とし、冬至の日から再びエネルギーを増していく(ただし、実際は地球にいるからそのように感じるだけであるが)。冬至祭は太陽の「死と再生」の日である。その太陽の色が、赤い服なのである。

また中部ヨーロッパでは冬至の日は年の変わり目にあたる。その日は、この世とあの世に裂け目ができて、死者が闇夜をかけめぐると信じられていた。死者の先頭に立つのがヴォーダンである。このヴォーダンは死者の国を行き来する神であり、魔術の神であるという。聖ニコラウス祭もこの年の変わり目の祭の一つなのである。つまり、来訪神の一人としての聖ニコラウスがいるのだと考えられるという。

 

ちなみに、 聖ニコラウス祭は、もともと翌年の豊穣を祈る村の祭りとして行われていたらしい。宗教改革以後は、プロテスタントの特色として聖人信仰が好ましくないということがあり、家族のための祭になる。1605年にストラスブールで「家庭に」ツリーが飾られたのが、確認できる最初の資料とのことである。

 

最後に、アメリカと資本主義。

「サンタ=プレゼントを持ってくるおじいさん」のイメージは、イギリス系アメリカ人のムーアが1822年に作った『聖ニコラウスの訪問』という詩と、イギリス系アメリカ人アーヴィングの『ニューヨーク史ーー世界の始まりからオランダ王朝の終焉まで』という本がきっかけだという。

 

アーヴィングは、「オランダ人オラフが夢に登場した聖ニコラウスに導かれてニューヨークを作った」ということを前掲書で書いており、「聖ニコラウスが子供にプレゼントを与え、馬車で空を飛ぶ」という描写も載せた。オランダは貿易で栄えた。ゆえに船乗りの守護聖人でもあった聖ニコラウスはオランダがプロテスタント国になってもなお、守護聖人であった(ちなみに、聖ニコラウスは、オランダ語ではシンタ・クラウス。それがアメリカでなまってサンタクロースになった)。

また、ムーアの詩には、私たちの認識と通ずるような「トナカイのそりをひく、プレゼントを届けてくれるやさしいおじいさん」としての聖ニコラウスが描かれている。

 

なぜ彼らはイギリス系でありながら、オランダ人の話をもちだしたか。

当時のアメリカでは、新移民が増えており、新移民と旧移民の社会的対立という問題が浮かび上がっていた。ムーアとアーヴィングは旧移民であった。そこで彼らは「ニューヨーク市民」をつくろうと試みたのではないかと著者は言う。そのために「オランダ人がつくったニューヨーク」というイメージを打ち出した。聖ニコラウスの物語は、いわば「ニューヨークの創生神話」として機能するのである。あくまで一説だそうだが、なかなか説得力がある。

 

サンタのビジュアルは、大衆雑誌『ポスト』のイラストにルーツがあるという。大量消費社会の時代でもある「ジャズ・エイジ」(1920年代)に活躍した二人のイラストレーターの手によるもの。白ひげ赤服のでっぷりしたおじいさんの姿がすでにそこには描かれている。

 また、コカ・カーラ社の広告に登場するサンタがそのビジュアルを世界に広めたという。「Wherever I go.」というキャッチコピーとともに、コーラを手にするサンタのイラスト。『ポスト』のサンタをふまえながらも、コカ・コーラ社のサンタには童顔という特徴があるのだという。当時のコカコーラ社は女性と子供の市場開拓を狙っていたので、童顔のサンタは市場拡大の役割にぴったりだった。そして実際に、資本力と広告戦略で世界中のシェアを広げていった。「人間がいるところならどこでも」のコカコーラ社と、「子供がいるところならどこでも」のサンタクロース。コカコーラがアメリカ資本主義の象徴となると、サンタクロースもまたアメリカ資本主義の象徴となった。

 

以上、サンタクロースの大まかな成立について概観した。

 

本書の最後のほうでは、フィンランドとサンタクロースについても触れられていた。サンタ村と、少数民族サーミ人と、フィンランドという国家についても。ここでは詳しく紹介しないが、サンタクロースという題材ひとつでここまで話が広がるのか~という感じであった。

 

サンタクロースの不思議が丁寧に明らかにされていって、読んでいて非常に楽しい本であった。ヨーロッパの土着信仰を研究するのも面白そう。

 

 

サンタクロースの大旅行 (岩波新書)

サンタクロースの大旅行 (岩波新書)