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21世紀のサイノツノブログ

サイノツノによる提言

性別は「女性」 『世界を変えた10人の女性たち』(文藝春秋)

書評 For Women

池上彰著、『世界を変えた10人の女性たち』を読んだ。

ラインナップは、以下。

ミャンマー民主化の立役者のアウンサンスーチー。
ボディショップの創業者のアニータ・ロディック
インドで貧しい人に生涯をささげたマザーテレサ
女性の社会進出に貢献したベティ・ フリーダン。
看護を発見し体系化したフローレンス・ナイチンゲール
イギリスの経済を活性化したマーガレット・サッチャー
難民の枠組みを変えた緒方貞子
二度もノーベル賞を受賞したマリー・キュリー
戦争のもとは環境にあることを発見したワンガリ・マータイ
日本国憲法制定にかかわったベアテ・シロタ。

以上の10人である。


本書はお茶の水女子大学での集中講義を書籍化したものである。
10人もとりあげられているから、なかなか一人一人を掘り下げていないが、本書を読めば上記の人々がどのような貢献をしたかについての概要がつかめる。


みな、並大抵ではない人物だが、今回は比較的知名度の低いと思われるアニータ・ロディックをとりあげたい。


アニータがこの10人に選ばれた理由を一言で言うと「ビジネスと社会貢献をミックスさせた」ということだろう。また、既存の化粧品業界に革命を起こしたというのも理由の一つだ。

アニータは、イタリア系移民の家庭に生まれた。彼女の実家はカフェをやっていたので、接客やビジネス、利益の上げ方はそこで体得したと思われる。
結婚するまでは、教育大学をでていたので教師をしたり、ジュネーブ国連での女性権利擁護部での仕事やパリでの英字新聞の仕事をしたりしていた。様々な国を放浪・仕事をしていたが、結婚して子供を授かってからは家計のやりくりのためにビジネスを始める必要がでてくる。

最初の3年間は夫婦でB&Bとレストランの経営をしていたのだが、働きづめで疲れてしまう。
そんなとき、夫が二年間休暇とって一人旅をすると言い出す。
そこで、彼女一人でできるビジネスをすることになり、化粧品を売ることを思いつく。

彼女は化粧品が大きな容器で売られているのが不満で、量り売りができないものか、と考えた。
また、自然なものが良いと思い、思いついたのが、日射しの強いタヒチやアフリカの女性の肌がきれいなこと。「肌に何を使っているのか」を彼女たちに尋ねると、カカオバターアロエベラ、ホホバオイルなどの答えが返ってきた。つまり、それぞれの土地の天然の素材が肌を美しく保護している、ということに気付く。
しかしそういった商品を作ってくれるメーカーはなく、「ハーブ商」という薬品会社に依頼する。
ボトルは尿採取に使われる容器で代用し、ラベルは手書きしたという。
また、広告は打たなかった。なぜなら、他のメーカーがCMの経費を価格に転嫁しているのを知っていたからである。

結果的にビジネスは大成功。
しかしもともと金持ちになるためのビジネスではなかったので、利益を社会に還元しようと考える。
そのような選択になったのは、彼女が国連で働いたことがあったり、教師であったことから「社会」に対しての機能ということをずっと考えていたからだと思われる。

アニータは、動物実験を禁止運動の先駆者である。それによって当時のECの動物実験の義務付けの基準が変わった。
また、熱帯雨林保全活動やエイズ撲滅キャンペーンなどにも取り組んだ。
途上国の支援もした。その支援の仕方は、今では普通だが「援助ではなく、取引を」というもの。


アニータについて特筆すべきは行動力と信念であろう。
とにかく行ってみる、やってみる、という姿勢。ボトルが代用品でも手書きのラベルでも、ビジネスを始める。
「化粧品」のかたちになっていなくても、「自然のものが良い」という信念からはずれていない。
「自然のもの」がつくれそうなところなら、化粧品メーカーという名前のところ以外も視野に入れる。


池上氏はアニータは「天才」である、と表現しているがそのように見えるのもわかる。
でも、私は、彼女を「天才」と表現するよりは「信念の人」と表現したい。
たしかにビジネスの感覚は「天才」かもしれないが、彼女の人生を見てみると社会に良いことをしたいというのがその根底に流れているように思われる。実際、彼女は「ほしいものを作る」「世の中のためになるものをつくる」と言っているそうだ。
最初は生活費のためだったかもしれないが、社会のためになるという信念こそが彼女を突き動かしたのではなかろうか。



全体像としての感想を書こう。

まず、実質的な「政治」の世界の人物が、サッチャーとアウンサンスーチーの二人しかいないことが気になった。「世界を変える」方法は政治以外にもあるという証明になる一方で、表舞台の「政治」は男性のものだけであったという事実もまた浮かび上がってくる。


そして、日本ではいまだに「政治」の世界は男性優位である。
内閣府男女共同参画白書によると、国会において女性議員が占める割合は、衆議院7.9%(38名)、参議院18.2%(43名)(平成24年12月現在)である。
人口における男女比は半々なので、本当の男女平等を考えるなら、最近目標になっている「30%」という数字は本当は「50%」であるべきだろう。


このような数字を見て、「海外で国際援助の活動をする日本人は、男性よりも断然女性が多い」と池上氏が書いていたのは、うなずける話だと思った。日本国内に女性が活躍できる場が少ないゆえに日本人女性が海外に流出している、という仮説は正しいように思われる。


また、冒頭で池上氏が書いていたのだが、世界を変えた10人の「男性」たち、というタイトルは成立しないのに、世界を変えた10人の「女性」たちというタイトルならば成立してしまう、というところに現在の男女がおかれる社会的状況の違いが表れていると言えよう。
というのも、本当に男女平等ならば、「世界を変えた10人」というだけでいいからだ。


とはいえ、本書の目的は10人の女性を知って、学生がそれを人生に活かすのが目的だから、ここではこれ以上踏み込まない。


講義の最後に、池上氏がレポート課題を出すのだが、そのテーマは「10人の女性に共通する資質とは何か」である。

私が論ずるなら、「そんなものはない」で終わってしまうのだが、あえて考えてみよう。共通する資質とは、「本人にとってなんらかの強いモチベーションがあった」である(でも、それって何かを成し遂げた「男性」も同じだろう)。

なぜ池上氏がこのようなテーマにしたかというと、「当時の時代背景、社会構造、人間関係、きっかけから理由をひきだすという抽象化能力を磨いてほしかったから」だという。そして、それによって「自分に何ができるか」という問題意識につなげてほしかったのだという。

また、私のような回答(「そんなものはない」)をした学生に対しては、「テーマ設定を根本的に疑う」視点は大学生ならば必要なことだ、とコメントしている。

ただし、批判的精神を持つということは大学生だけでなく、社会に出てからも必要であろう。というのも、世の中には学校で習ったような模範解答は存在しないからだ。また、知らないうちに権力に誘導された選択をしてしまうこともあるからだ。

本書をきっかけに、一人一人の人物を詳しく知りたくなった。
道を作ってきた女性たちに勇気づけられる一冊である。