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21世紀のサイノツノブログ

サイノツノによる提言

政治を動かすものは何か 『独裁者のためのハンドブック』(亜紀書房)

書評 現代社会論考

『独裁者のためのハンドブック』を読んだ。

 

ポップな表紙とキャッチーなタイトルとは裏腹に、その中身は真面目な政治学の本である(とは言ってもだいぶ読みやすくかかれている)。本書は「権力支持基盤理論(Selectorate Theory)」を一般向けに解説したものである。

 

「権力支持基盤理論(Selectorate Theory)」とは、一言でいえば政治を行う者とその支持者との関係から政治がどのように動くのか、権力がどのように維持されるのかを探るものである。権力者が「自身の権力維持のための最適な方法」をいかに選択するかによって政治の動きが決まる、というのが前提である。本書の著者であるメスキータとスミスに、シルヴァーソンとモローを加えた4人の研究チームBbM2S2によって提唱されている。

 

著者は3つの政治グループに分けて分析している。

1.リーダー

2.支持を取り付けるべき人=盟友集団、取り替えのきかない者

3.働いている人=有権者集団、取り替えのきく者

 

その分析はどのようなものであるかと言うと、たとえば独裁国家において災害が起こったとしよう。多くの国々がその政府に援助金を送るだろう。しかし、いつまでたっても国民は避難生活から抜け出せない。これは、独裁国家には盟友集団が少ないためである。つまり、国民を助けるよりも支援金を盟友集団に渡すほうが権力者にとっては自身の権力維持に有利に働くために、国民の救済にお金が使われないのである。国民をないがしろにしても、自身の権力を支えているものをつなぎとめてさえおけば、独裁者は権力を維持し続けられるのである。また、あるエリアに盟友集団が固まっていたらそのエリアを重点的に救済し、他のエリアは放置されるということが起こる。

 

次に、民主主義国家において同じ災害が起こったとしよう。民主主義国家においては盟友集団が多いために権力者は上記のようなことをしない。なぜなら権力者にとって不利になるからである。どういうことかというと、民主主義国家においては公正な(と信じたい)選挙によって指導者が選ばれる。ということは、支持の割合が小さくて済む選挙区割やシステムがあるとはいえ、比較的多くの国民からの支持を得なければならない(これが盟友集団が大きいということ)。そのような制度の中で被災した国民を放置したら、指導者が権力を失うことは明らかであろう。

 

 

このような視点から見ると、資源国がなぜ独裁国家になりやすいかということがわかる。つまり、資源がある国は国民の労働と生産性に頼ることなく外貨を得ることができ、そのお金で小規模な盟友集団である軍の忠誠を買うことができるのである。

 

これが中東や西アフリカの民主化を妨げている。これらの国が民主化するためには、外貨を得られないようにして、国家が国民の税収に頼らざるを得ないようにするのが解決策の一つである、と著者は提案している。税収を上げるには、生産性を上げることが必要で、そのためには結社や言論の自由を持たねばならないのである。

 

しかし、民主主義国家に住む私たちは安い原油を求めていて、民主主義国家の指導者は国民の支持を得る必要があるので、自国の国民を優先するのである。つまり、民主主義国家は独裁国家のリーダーが外貨を得るのに寄与しているのである。民主主義者は国内では民主的であるかもしれないが、海外では従順な体制を好むのだ。私たちは西アフリカや中東の本当の変化よりも安い原油を求めているのである、と著者は言う。なんとも手痛い指摘である。

 

NGOの問題点もあぶり出されている。NGOが子ども一人に1000ドルかけて100人の子どもに教育を受けさせるとしよう。合計10万ドルである。一見100人の子どもが救われたように見えるが、独裁者は実際には50人の子どもたちにしか受けさせていないかもしれない。そして5万ドルは独裁者のポケットに入っているかもしれない。

支援は結局独裁者に資金を盗む機会を提供しているだけなのかもしれない、という懸念があるのだという。

 

これらのことを踏まえると、支援するなら直接被支援に渡す、原油を節約し新たな資源を活用するなどのことが、私たちができることであろう。

 

本書を読むと、政治家のモチベーションという新たな観点から政治を観察することができるようになる。政治を考えるときには、イデオロギーやいわゆる地政学的な観点もかかせないであろうが、本書でみたように政治を行うのは人間なのであるという視点を忘れてはならないだろう。そして、現代における人間の最大のモチベーションはお金なのである、ということを理解する必要がある。

 

指導者や私たちが、お金自体には価値がないことを悟り、そしてお金のために人の命が軽く扱われることがいかに馬鹿らしいかを理解し、自分の家族と目の前の人間が同じくらい大切な存在であると気づくことができたときにはじめて、抑圧される人々が地上からいなくなるはずだ。

 

独裁者のためのハンドブック (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

独裁者のためのハンドブック (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)