21世紀のサイノツノブログ

サイノツノによる提言

女性どうしの友情 『対岸の彼女』(文春文庫)

「女どうしの友情は脆い」と世間は言う。「マウンティング女子」(相手よりも自分の方が上であると示す女子)などという言葉さえある。女性同士を引き裂こうとする言説は世の中に溢れている。しかし、フェミニズム関連の本をあたっていると、「連帯」というキーワードが頻出する。より多くの可能性を探るためには、もっと女性同士の関係性を考える必要があるなあと思っていた。

そんなときに、『対岸の彼女 (文春文庫)』(角田光代・著)が、シスターフッドの物語だとして『女ぎらい――ニッポンのミソジニー』の中で紹介されていたので、さっそく読んでみた。良かった。おもしろかった。わくわくした。今日は『対岸の彼女』の書評をしながら、女性どうしの友情について考えてみたい。
 

概要

直木賞をとった作品で、映画化もされているようなのでご存知の方も多いかもしれないが、一応概要を説明する。

主人公は、旅行をメイン事業とする会社の社長の「葵」35歳。3歳の娘と夫を家族にもつ主婦の「小夜子」35歳。二人は同じ大学出身、同い年という共通点がある。

ストーリーは、小夜子が一念発起して葵の会社に入るところから始まる。その後は、葵目線の高校時代の話と、小夜子目線の現在の話が交互に語られていくという形式で物語は進行する。二人はだんだん親しくなっていくのだが、会社の内紛、葵の少し変わった過去が原因となって、小夜子は葵からいったん離れてしまう。しかし、その後二人は社員のいなくなった会社で新たなスタートを切る。
この話のミソは葵の過去にある。その過去とは、葵は高校時代の親友・ナナコと「ある事件」を起こし、週刊誌に報道されたこと。そして小夜子はその事件を記憶していた。
 

女性どうしの友情とは何か 「一人の人間」として向き合うこと

葵は、小夜子が義母に嫌味を言われていることを知ると「ぶっ飛ばしてやれ!」と言う。葵は、小夜子の娘の運動会に来てビデオをとる。小夜子と娘と葵で、伊豆に行く。小夜子の家で、二人で仕事をする。小夜子は、「葵といたら何でもできそうだ」と思う。
一人の人間として向き合うこと。既婚や独身など、それぞれの立場の違いを超えて励まし合うこと。これが友情なのだと思う。
 
女性は、結婚すると特に、「一人の人間である」という感覚が薄れがちだ。それは、「○○の妻」とか「○○の母」とか「○○家の嫁」とか、誰かの付属物のように表現されることが多いからなのではないだろうか。しかし、人間どうしの関係というのは「一人の人間である」という共通のベースがなければ生まれない。「一人の人間である」という感覚を失いやすいから、女性の友情は築きにくいように思えるのではないだろうか。たとえば、ママ友が「友達」ではなく「ママ友」であるのは、子どもや夫の話しかしないから(推測)だろう。
葵は、初めから同い年の友達として小夜子に接した。小夜子を励まし、小夜子と語り合った。葵は独身なので必然的なことなのかもしれないが、娘がどうのとか、夫がどうのということは抜きに小夜子と接した。
 
「一人の人間である」という共通ベースは、パートナーとの関係でも必要だ。パートナーを一人の人間として認識していないから(付属物、所有物として認識しているから)、DVが行われる(『愛を言い訳にする人たち―DV加害男性700人の告白』)。
小夜子の夫は、子どもの世話を頼むと嫌な顔をする、小夜子の仕事は替えのきく仕事なのだから辞めろと言う、そんな夫だ。DVは行われていないが、小夜子を一人の人間として扱っているかは怪しいだろう。
 
小夜子と夫、小夜子と葵の関係は、人間と人間の関係であるという点で同じだと考えると、本当に人間どうしの関係だと言えるのはどちらだろうか。もうそんなの決まっている。婚姻届を出したからといって、人間どうしの関係が自動的に作られるわけではないのだ。お互いがお互いを一人の人間として尊重し合って初めて、人間どうしの関係、ひいては友情が生まれる。女性どうしの友情は、まずは自分自身が「一人の人間である」ことに目覚めるところから始まるのではないだろうか。
 

本書の魅力

小夜子が会社を辞めたあと、自分の心と向き合って、葵と協力する道を選ぶのが本書の魅力。王道の価値観なら「主婦に戻って家族を大切にするわ~」となりそうなところを、小夜子はさわやかに覆す。
家族が大切なのはもちろんだけれど、家族以外の大切な関係だってたくさんあるのだから、こういう小説がもっと増えてほしい。
おわり。

 

対岸の彼女 (文春文庫)

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角田光代の作品は、初期のものを立て続けに読んでいたことがあるが、本書の世界観と全然違った記憶がある。初期の作品は、女の子が一人の世界で一人でもがいているような話が多かったかもしれない(わたし自身が迷走していた時に読んでいたからかもしれないが)。それに比べると、本書は純粋に誰でも読めると思う。 

対岸の彼女 [DVD]

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『 きらきらひかる』も、王道の関係以外を描いた作品。